八洲が信頼する本鮪漁船「第八十八太和丸」(たいわまる)の船頭、嶋崎康正さん。一年に一度、全国有数の鮪水揚げ港である、静岡県の清水港に寄港します。アイルランド沖で獲れた天然の本鮪は、船内の設備で即冷凍。船の冷凍庫にぎっしり積まれた冷凍鮪は300tにも及びます。5月、24人の船員を率い一年の遠洋漁業を終えた嶋崎船頭に、漁に懸ける想いを聞きました。
自分のこだわりは、漁期にあります。10月に出航するのがベストだと考えていて。早い時期の魚は、質が良くない。秋になると水温が下がって魚が寒さから身を守ろうとするので、脂が乗っておいしくなるんです。実際、魚の価値は10月ごろから上がりはじめ、寒さが増すごとに高価になっていく。でも、冬は海が荒れやすく、11月には時化(しけ)が起こることもしばしば。さらに、環境保護の観点から漁獲量の上限が決まっていて、その調整も難しい。それでも良質な鮪を獲るために時期を見極め、ここだというタイミングで出港しています。
良質な魚を獲れるように漁場を選定するのも、船頭の重要な役割。長年の経験で潮目や水温を見定めて、鮪の回遊ルートを探していくのですが、例えば東の海は魚が多いけれど質が落ちる、というような状況の見極めやせめぎ合いが常にあります。漁師仲間から情報が入って、それを聞いて動いたからといって釣れるわけではないですしね。その時の漁模様によって、次の船の動き方を決める。それが船頭の腕の見せどころです。絶妙なタイミングを掴み、「よし行こう」と言って、その先で鮪が動き50本、60本と上がってくれたらやっぱり興奮します。体力との闘いですから、鮪が来たら疲れるけれど、良い成果を出せた時の喜びは大きいですね。
鮪船に乗るというのは、特殊な仕事です。漁に必要なものは、瞬発力よりも持久力。また、船頭を目指す若い船員も多いけれど、ただ数年を船で過ごすだけでは船頭にはなれません。船員あっての船頭なので。まずは船員と信頼関係を築くことが大切です。船員たちに慕われるようになって初めて、船主に船頭として認めてもらうことができるんです。私はもう、そんなに長くは船に乗れない年齢ですから、今後、船頭を目指す若い者を育てていきたいですね。