私が花粉症に苦しむ2023年3月17日。太平洋での漁を終えた、第五十八博洋丸(はくようまる)が清水港で水揚げを行いました。もちろん、水揚げ作業が始まってしまえば鮮度維持の為、素早く鮪を選別し、冷凍庫へ運ぶので花粉症なんて言ってはいられません。出刃包丁で皮目をめくり、身の色目を確認していると、太平洋で釣れる目鉢鮪特有と言われている赤身の色の濃さが分かります。今回は、こちらの船で船頭として漁の指揮を執る渡邊晴男船頭に取材をさせて頂きました。
太平洋で目鉢鮪を中心に漁を行う、第五十八博洋丸で指揮を執るのは渡邊晴男船頭です。宮城県南三陸町で生まれ育った渡邊さんは、「親父も船に乗っていたし、親戚もみんな船乗りだった」と、港町ならではの自然な流れで漁師になったと話してくれました。
漁や鮪に関してのインタビューを開始する前に、「水揚げを終えて約2ヶ月近く陸上での生活が始まりますが、楽しみにしていることは?」と、尋ねてみました。すると、渡邊さんは、「無い!子供は育ってもう大人になったし、船の上の方が楽しいよ」と、職人気質溢れる回答に思わず敬服してしまいました。
第五十八博洋丸の船頭を務めて3回目の航海を終えた渡邊さんに、船の特徴を聞いてみると、「船主さん(博洋漁業株式会社)がこの船の船員を大切にしているところ」だと、話してくれました。以前は、違う船で働いていたという渡邊さんですが、4年ほど前に博洋漁業株式会社から共通の知人を通じてオファーを受けたそうです。「機関士や航海士など役割はあるけれど、船頭としてオファーを受けたことが嬉しかった」と、渡邊さんは話します。更に、「釣れる魚全てが良い魚というのは難しいけど、船主さんが求めるような良い目鉢鮪を少しでも多く釣って評価してもらえたら嬉しい」と、話します。
ふと、船体を見ると「叶」の文字が刻まれていました。由来を尋ねると、「先代の社長の名前から一文字貰って刻みました」と、船主さん。先代も現在の船主さんも、理想とするような良い目鉢鮪を釣る為、渡邊さんは今年も太平洋へと向かいます。
大西洋はアイルランド沖の本鮪、インド洋は南鮪。そして、太平洋といえば目鉢鮪の好漁場だと私は思います。冒頭でも述べましたが、太平洋の目鉢鮪は赤身の色が濃く、お刺身にした時に見た目が映えるので、他の漁場の目鉢鮪より高値で取引されます。特に“西経”(せいけい)と呼ばれる漁場は、特に色が濃い。「私たちは、八洲が理想とする品質を求めて、西経の中でも特に南で漁を行う」と、船主さんは言います。長年、西経で漁を行う博洋漁業と八洲は、赤身の濃さや脂の乗りなど“良い”と評される目鉢鮪を求め、毎年帰航の度、互いに協議を重ねてきて、行き着いた答えが西経の中でも南側で漁を行うことでした。渡邊さんも「同じ太平洋でも近場ではなく、良い目鉢鮪を求めて遠い南側まで行くのだから評価してもらえたら」と、言います。
同じ目鉢鮪、同じ太平洋、同じ西経でも、第五十八博洋丸がこのポイントで釣ってきたから更に良いということを、今度は私たち八洲側が、お客様に伝えていく番だと意気に感じる取材になりました。
2023年3月 取材