第八十八勝栄丸
~豊漁と無事を願い大海原へ~ 第八十八勝栄丸 船頭 / 石原至 船主 / 羽根田薫

 約1年の長い航海を終えた「第八十八勝栄丸」(かつえいまる)が水揚げのため清水港に寄港しました。天然南鮪、鉢鮪など、旬の漁場で獲れた鮮度の良い鮪を今年も届けてくれます。「第八十八勝栄丸」と八洲水産グループは上質な鮪を求め、何度も協議を繰り返し、現在に至ります。そこで今回は船頭である石原至(いたる)さん、船主である羽根田薫(かおる)さんにお話を伺いました。

石原船頭、航海への想い。

 石原さんに漁師になってどのくらいなのですか?と尋ねると「漁師になって45年、20歳から乗っている。乗ったきっかけは両親が船主だったから。自分からというより乗らされたかな(笑)」と話します。
 船上でのルーティンは、毎日神棚に「豊漁」と「航海の無事」を祈ることだそうで、今回も無事帰って来られたことにほっとしていました。石原さんの毎日欠かさず行うルーティンのおかげで「第八十八勝栄丸」は何事もなく、無事に帰ってくることができているのでしょう。

少しずつ変わっていく海。

 天然の南鮪には漁獲枠が設けられています。「前と比べて南鮪の量は増えたけど、クジラも増えているから、餌になるオキアミや甲殻類を鮪が食べられなくなっている。昔みたいに鮪全部が100Kg以上なんてことはないからね。なにより海の水温が上がっているのが一番深刻だね。鮪からしたら1℃上がるだけでもヤケドするくらい」と石原さんは言います。実際、漁獲枠は少しずつ増えてきています。しかし現状は、昔のように脂の乗りがよく、上質な鮪にはなかなか出会うことができないのです。それに加え、海にはいくつものゴミが投棄され、更に深刻な問題となっています。このような現状が鮪に大きな影響を与えているのだと感じました。

これからの遠洋延縄漁業へ希望を託す。

 「一番苦労しているのは乗組員問題」と羽根田さんは言います。一昔前、鹿児島県では小学校の教科書に「遠洋延縄漁業」についての項目が載っているほど身近な存在でした。しかし、現在は載っていない為、子供たちが漁師に興味を持つキッカケが減っています。将来を担う子供たちに、漁師の魅力や面白さを伝える為、羽根田さんは他の船主の方々と協力し、地元の小学校へ課外授業に出向いています。10年以上前から始めた活動なので、鹿児島で漁師を志す若者が増えてくることを願っていました。
 また冷凍鮪の魅力についてお話を伺うと「冷凍鮪のいいところは旬の時期に獲れた鮪を、食べたいときにいい状態で食べられること。皆様に美味しく鮪を食べていただきたい」と胸の内を明かしてくれました。

 今回のインタビューを通じ、多くの問題に直面している事、これからの未来への想いについて知ることができました。普段、何気なく食べている鮪ですが、それは決して当たり前のことではないのだと感じました。これからも「第八十八勝栄丸」に、多くの方の食卓を彩る鮪をたくさん獲っていただきたいです!

2023年2月 取材

SHARE

関連記事

第八太和丸
~約半年の航海を終え帰港~

皆さんは、鉢鮪というとどんな鮪を思い浮かべますか?近所のスーパーなどでよく売っていて、目にする機会が非常に多い鮪ではないでしょうか。鉢鮪は、世界中の海を回遊しているので、世界の様々な漁場で漁獲することができます。そんな鉢鮪にも旬の時期と好漁場があり、そこで獲る鉢鮪は、身の色や脂乗りが非常に良いのですが、流通は少なく、非常に貴重です。そんな貴重な鉢鮪を獲りに行っているのが、第八太和丸(たいわまる)です。  第八太和丸を保有する株式会社太和は昭和62年に設立され、現在の船主は三代目の籠尾(かごお)啓太さんです。高知県土佐市に本拠地を構え、3隻の漁船を保有しています。 今回は、第八太和丸の船頭である山下浩明さんにスポットを当てて、苦労話や今後の展望についてお話を伺いました。

長い航海を終えた第八明神丸に迫る

静岡市清水区にある清水港は冷凍鮪の水揚げ量、全国トップクラスを誇る港です。そこへ、約1年の長い航海を終えた第八明神丸(みょうじんまる)が着岸しました。第八明神丸は、天然南鮪を中心にインド洋で漁をし、清水港へ帰ってきます。インド洋は、太平洋、大西洋と並ぶ三大洋の1つで、3つの中では最も小さい海ですが、天然南鮪が獲れる漁場としては、1、2番を争う漁場です。そこで今回は、船頭である小清水政春(まさはる)さん、船長である梅田正幸(まさゆき)さんにインタビューしました。

“赤身”の好漁場から今年も第五十八博洋丸が帰航!
太平洋へ毎年向かう渡邊船頭に迫る。

私が花粉症に苦しむ2023年3月17日。太平洋での漁を終えた、第五十八博洋丸(はくようまる)が清水港で水揚げを行いました。もちろん、水揚げ作業が始まってしまえば鮮度維持の為、素早く鮪を選別し、冷凍庫へ運ぶので花粉症なんて言ってはいられません。出刃包丁で皮目をめくり、身の色目を確認していると、太平洋で釣れる目鉢鮪特有と言われている赤身の色の濃さが分かります。今回は、こちらの船で船頭として漁の指揮を執る渡邊晴男船頭に取材をさせて頂きました。